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May 18, 2017

3月のライオン

3

3月のライオン/羽海野チカ
白泉社ジェッツコミックス

エントリーの順序が逆になったが(すでに正月休みにkindleワンクリックで既刊全巻制覇)、映画が公開されたことで、改めてこの漫画の本質がわかったような気がした。
 
 2011年の漫画大賞は知っていたが、自分の好みの範疇からは外れていてちょっと入りづらかった。やはりアニメあるいは新房昭之が読む気にさせてくれたといってもいい。アニメでは心象風景の描写に‘水’を多用し、これぞ新房ワールド全開であった。割り戻して、コミックスがそこまで桐山零の内面描写に構かけてないこともあり、ドラマとしてはコミックスの方が軽快に読める(内容自体は結構重いのだが)。
 
主題は中学生でプロ棋士になった桐山零の成長の物語だ。幼いころに突然両親と妹を失い、父親の友人であり棋士である幸田に拾われ、生きていくために好きでもない将棋と向き合うことになった少年が、徐々にその才能を開花させていく。しかし、彼が強くなればなるほど彼自身の境遇は悪くなり、そして、自分がかかわることで人が不幸になると思い込んだ彼は幸田の家を出る。一人暮らしを始めてみると、新しい場所で、また将棋の世界でも新しい出会いがあり、その環境の中で零はポジティブに成長していくのであった。
 
仕事場である棋士の世界(オン)と、零の日常に深くかかわる川本家(オフ)が主要舞台となる。登場人物たちの人間模様がモザイクのように描かれ、それぞれにいちいち由来(過去)があり、それらがさらに絡み合ってドラマは深みを増していく。

オンでは、プロ棋士の監修を受け、本格的な対局の描写、解説が繰り広げられており(将棋コラムも効いている)、将棋をあまり知らない人でも中身に半歩でも踏み込めるようになっている。オフでは川本家のほのぼのとした下町家族に癒される。3姉妹の父親のエピソードやひなたちゃんのいじめの問題など、意外と辛辣な試練が待ち受けていたりもするのだけれど、彼女たちを救う零が頼もしい。人となるべくかかわらないように生きてきた零が、彼女たちに救われている自分に気づき、彼女たちを助けたいと思えるようにまで成長していく姿にちょっとした感動を覚える。オンにもオフにも人生の機微、起伏があって、喜怒哀楽にあふれている、感情豊かな作品なのだ。
 
そしてこの作品の最大の魅力は、画質も含めた柔らかな空気感だろう(‘ニャー将棋’がその象徴)。厳しい棋士の世界も、どこかほわっとしたもので包まれ、画面からの緊張感がいい意味でも悪い意味でも伝わってこない(どちらかといえばコメディー臭のほうが強い)。ひなたちゃんのいじめの話でも、ダメ父親のはなしでも、身につまされるような辛辣な印象が残らない。どこか昭和の匂いがする作風も合わさって、何でもかんでもほのぼのとしてしまうのだ。きっと辛い時に読むと救われる気がする。
 
さて、13巻を重ね見えてきたのは零にまつわる3つのテーマ。一つはプロ棋士としての宗谷名人への挑戦。一つは香子(≒後藤)との関係。そして、川本家、特にひなたちゃんとの関係だ。どこが終着点になるかはまったく想像がつかないが、ドラマは一手一手着実に進んでいる(果たして原作者に終局は見えているのだろうか)。

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