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February 17, 2017

沈黙

狐狸庵先生の名作を長い時間をかけて名匠マーティン・スコセッシが映画化。中世日本(江戸時代初期)におけるキリスト教の有り様と、宗教弾圧の渦の中で翻弄される司祭と信者たちの苦悩が描かれている。原作未読ながら、おそらく原作を忠実になぞっているだろう本作からは、人間の生と信仰について様々な示唆を得ることができる。(ネタバレ)

Silence

映画は、余計な音を一切挟まず、タイトルのごとく深く静かに進んでいく。派手な音楽で情感を盛り上げようとする手法自体は否定しないが、そんなことをしなくても、映画に対する感情移入はすんなりできることをこの作品は示している。余計な要素がないために、むしろそのシーンの情景や自然の音(波や風、火がはぜる音などなど)に注意が向き、役者の演技に没入していくことができるのだ。

宗教弾圧のための拷問や極刑のシーンが品を変え所を変え繰り広げられる。視覚化されることによって、その残虐性は際立つのだが、一方で、人権という概念がほとんどなかったような当時の感覚として、こういった拷問がごく自然に当たり前のように行われていたのには、それなりの合理性があったのだと思う。それは、イッセー尾形演じる井上筑後守の言動から伺える。それにしても、最初登場した時は誰だかわからなかったのだが、彼の演劇界に登場した出自からすると、‘地方の為政者’などはまさに適役だと思った。彼をキャスティングした慧眼に恐れ入る。イノウエのインテリジェンスを端的に演じきるイッセー尾形にとって、もしかしたらこれが世界へ進出する橋頭保になりうるのではないか。そう思わせるに十二分の演技だった。その彼の演技を通じて理解するのは、幕府が敵視していたのはあくまで『キリスト教』であり、それを布教しようとする勢力だった。キリスト教を信じる貧しい農民自体が敵ではないのだ。だから、棄教しさえすればなんの咎めも受けなかった。弾圧が彼らの信仰心をさらに頑なにしていった(むしろ殉教、天国へ行けると喜んだ)という側面は否定できないだろうが、獄門による見せしめが勢力の拡大に対する抑止力として最も効果的であったことも事実だろう。イノウエは彼の任務に忠実に従い、効果的な方法によってそれを達成しようとする、非常に賢い為政者だ(外国人神父を殺してしまうのは簡単だが、彼らを棄教させることの影響力が大きいことを見抜いていた)。かつてフェレイラ神父(リーアム・ニーソン)を棄教させ、いままたロドリゴ神父(アンドリュー・ガーフィールド)を棄教させようと画策するのだ。真綿で首を絞めつけるかのような彼の計画によって(その締め付け具合がなんともエグイ)、物語はクライマックスを迎える。

他方、‘キチジロー’(窪塚洋介)は、主人公であるロドリゴ神父に付きまとい、あるときは導きあるときは裏切り、彼を翻弄する道化役を演じている(窪塚洋介もキチジローの弱さをストレートに演じていて好感が持てた)。ロドリゴにとっては心を惑わす悪魔の手先のようにも思えた存在だっただろうが、最終的にロドリゴはキチジローの無垢さによって自分の信仰のあるべき姿に気づかされるのだった。キリスト教徒でありながら、キリスト像を幾度も踏み、聖母に唾を吐くキチジロー。そうすれば罰せられないことを彼は知っており、生きるためにはそうすべきだということに疑いを持たない。一度裏切りながらも何度も自分のところに懺悔に来る男は一体何者だとロドリゴ神父は思っただろう。しかし、キチジローにとってのキリスト教とはそういうものなのだ。そして、そのことで彼は救われ、生きていくことができる。ロドリゴ神父はイノウエに拘束された後、イノウエと信仰論を戦わせながら、最終的に棄教に追い込まれていく。しかし、キチジローの存在が彼をその窮地から救うことになる。キリスト教という枠組みを超え、人の生きることに対する信仰の意義をそこに見出すことができる。ちょっと蛇足感もあるエピローグだが、見ている側もそこにはちょっと救われた気分になった。

‘カイロ・レン’のアダム・ドライバー、‘ラーズ・アル・グール’のリーアム・ニーソンが脇を固め、日本からは浅野忠信が通辞役で橋渡しをする。男臭く泥臭く血なまぐさいが、実に骨太な一作である。

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