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March 04, 2014

鑑定士と顔のない依頼人

原題は『THE BEST OFFER』。監督は『ニューシネマパラダイス』の名匠ジュゼッペ・トルナトーレ。天才鑑定士ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)が姿を見せない女性クレア(シルヴィア・フークス)からの鑑定依頼を受けてから、自らの生活を変化させていく(恋に落ちていく)話なのだが、‘高い授業料’の話をこうも格調高く描けてしまうのは、やはり名匠だからなのだろう。謎めいた導入から、アッというどんでん返し、そしてややもすると冗長と感じるが大変重要な意味を持つエンディングのシーケンスまで、ぐいぐいと引き込まれていく。(ネタバレ)

The_best_offer

ストーリーの各所には伏線が張り巡らされているが、なかでもオールドマンがクレアとの関係を進めようとイケメン修理屋ロバート(ジム・スタージェス)に相談する会話の中で、‘贋作のなかには製作者の真実が必ず含まれている’という行は重要だ。それはこの物語全体に嘘が隠されているという暗喩であり、その嘘を見抜くサインが存在しているということでもある。そして、天才鑑定士である主人公は、美術品の真贋は見極められても、人生におけるそれは見抜くことができなかった。主人公に対する痛烈な皮肉。しかし、それは反転して最後に愛情となって昇華されるのだ。この構図を理解できないと、ただの詐欺にあった馬鹿なエリートの話で終わってしまう。

本作における醍醐味は、いかに主人公であるオールドマンの生活信条が崩壊していくかにある。クレアという生身の女性のインパクトに翻弄され、右往左往するオールドマンの心理の変遷がこの映画の最大の見所であり、それをジェフリー・ラッシュが見事に演じきっている。潔癖症ゆえに女性に対しても生理的嫌悪を抱いてしまう、ちょっと特殊な性格の主人公は、初老を迎えるまで独身を通し、女性の肖像画を蒐集することで女性との関係を埋めていた。それが、謎の依頼人に引き込まれついに生身の女性との関係を持つことができるようになる。そして裏切り。すべては長年コンビを組んできたビリー(ドナルド・サザーランド)の仕組んだ罠だった。しかし、彼は警察に被害届を出さない。盗まれた‘女性たち’は不当行為によって入手したものだからということもあるだろうが、それ以上に、もはや彼は‘彼女たち’を必要としない存在になっていたということでもある。クレアは広場恐怖症で外の世界に出て行けない精神的な病を患っている設定だったが、オールドマンこそ自分の世界に閉じこもっていた病人だったというわけだ。それが最終的に開放され、クレアが語った思い出の場所で‘Best offer’を待つラストシーンは、寂しいけれど何故かほのぼのとするのだ。ちなみに、『The best offer』とは‘最高の出品物’という意味。オールドマンが助手に妻とは何かと問いかけたときの助手の答えだ。

表層的には詐欺を題材にしたミステリーとして十分楽しめるし、こうした主人公の心理をなぞっていくことで重層的に楽しむこともできる。特にオールドマンとクレアの駆け引きは―最初は高飛車だった彼が徐々に押し込まれていく様は見ていて面白い。実生活にもためになりそうだ。さらに伏線が縦横無尽に走っているので、やはりこの作品も一回観てもう一度観たときの方がより楽しめるのではないかと思う。

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