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September 01, 2012

シャドー81

81シャドー81/ルシアン・ネイハム 中野圭二訳
ハヤカワ文庫 ISBN978-4-15-041180-0

1975年に発表されたハイジャックを題材としたクライムアクション小説。ハイジャックといえば機内に武器を持ち込み、乗客を人質に要求を突きつけるのが常識的だが、ここにはまったく異なる形のハイジャックが描かれている。それは、飛行する民間機の後方から戦闘機がミサイルで狙い撃墜すると脅す形で乗客乗員を人質に取る方法だ。犯人は自らを飛行機の背後にいる者〝シャドー81〟と名乗る。(ネタばれ)

前半は、ハイジャックするために欠くことができないアメリカの最高軍事機密である垂直離着陸爆撃戦闘機をちょろまかす計画が綿々と描かれる。多少細かすぎて間延びするところもあるが、ここをしっかり描きこむことで事件のリアリティを生み出している。犯行準備が整うにつれて読む側のテンションも上がっていき、いよいよターゲットとなるボーイング747を捕捉し銃口を突きつける段になると、読むスピードは加速的に速くなっていく。これまでの常識を覆す犯罪アクションが、陸海空全域で世界的に描かれるスケール感といい、読み進めていくほどに高まるワクワク感は半端ない。どうやって奪った金を持って姿をくらますのか、まったく予測のつかない犯行の終焉をめがけてページをめくっていく。途中予期せぬトラブルがおき(上空で酸欠になったときの緊迫感などは、空を飛んでいる自分的にもハッとさせられたところだったりする)、それを機転を利かせて回避したりしながら(あるいは当局の体質によって偽装を暴かれることがなかったり)、まんまと盗みおおせる結末からは、犯罪小説としてはちょっと意外に思いながら、当時のアメリカ社会・体制に対する痛烈な批判としてこの作品を位置づけたかった作者の意図を感じることができる。奇をてらった犯罪サスペンス小説というより、「時代の常識」に対抗する新しい考え方を提示する社会派小説というのが本作の本質なのかもしれない。

現実世界のハイジャックの目的のほとんどは政治的なものが絡んでいる。しかし、この犯人の動機は組織に対する復讐と経済的なものだ。その動機にこそ、当時のアメリカ社会に対するシニカルな批判を込めているのだとも言える。ベトナムをはじめとする政治的混迷状態をおちょくるようなプロットとエンディングは痛快で、正統的社会派のような切り口ではない、作者独特のユニークさがいっそう批判の剣を鋭く見せている気がする。ダイナマイトを抱えたサンタクロースが、警官隊を引き連れて街中を強盗して回る様は、想像するだけでおかしい。どうしてこれが映画化されないのか不思議なくらい、エンタメとしてもクオリティが高い。しかし、作者ルシアン・ネイハムの次の作品を読むことはできない。シャドー81は彼のデビュー作であり遺作でもあるのだ。

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