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September 06, 2011

それでも町は廻っている 第9巻

9 それでも町は廻っている第9巻/石黒正数
少年画報社 ISBN978-4-7859-3690-7

 
アニメを見たときには正直それほど面白いとは思わなかった。新房昭之にしてはオーソドックスな演出で、オープニングとエンディングは好きだったが、作品としては歩鳥役の小見川千明のきんきん声だけが妙に耳に残った以外は、あまり印象がなく、実際録画も第1話を残して全部消してしまった。ただ、アニメが終わったあともなんかずーっと気になっていて、ついにこの春に漫画原作の方を既刊全巻大人買いして読んだら、これがまぁ面白いじゃありませんか。なぜこのように原作とアニメに対する感想が違ってしまったのか、そこにこの作品独特の魅力が潜んでいるのではないかと思ったりする。

お気楽で探偵になることを夢見ている推理小説好きの女子高生・嵐山歩鳥を主人公に、彼女を取り巻く町の仲間たちが繰り広げる日常的コメディ、ときどきSFのち推理小説なんだけれども、この作品の面白さは、表面的なドタバタではなく、登場人物それぞれのキャラクターの深みとそこで絡み合う人の優しさがほのかに漂ってくるところにある。やや自虐的な笑いとでも言おうか。ただ、どじっ子さを上から笑い下すのではなく、自分も一面そんなところがあるなとか、自分の周りにもこんな奴いるよな、という等身大の笑いをちょっと捻った感じがくすぐったい。それらを引き出す設定がこれまたよく出来ていて、舞台となる昭和の香りのする町/商店街に対する作者のこだわりと強い愛着を感じる。亡くなった喫茶シーサイドの爺さんが、生前自慢のカレーのレシピを占いマシーンに隠した話(第6巻第46話)とか、小学校の観察池に棲むといわれる生物の謎を猛(たける)が追う話(第5巻第42話)とかは中でもお気に入りである。

画風はおそらくというかたぶんに大友克洋に影響を受けていると思われ、その部分でも自分の好みではあるのだけれど、コマ割りに変な力みがなく、それでいてしっかりとした空気が感じられる。おそらく、その空気感をアニメでは上手く表現できなかったのではないだろうか。表層的な強調や誇張(アニメの第1話の歩鳥のこけるシーンなど)は、この作品自体のテンポや空気感をスポイルするものだと思うし、そもそもこの作品における本質的な面白さはそこにはないのだ。かといって、演出がオーソドックスすぎるとおそらくアニメでは流れていってしまうだろう。動画にすると一コマのニュアンスが逆に伝わらない。原作の良さをアニメとして表現するには、さすがの新房をもってしてもちょっと難度が高かったのではないかな。

さて、本作第9巻は「思い」とか「思わく」がテーマになっている。作者自身が4巻のあとがきでテーマのことを語っていて、1巻ごとにテーマを決めて話を取りまとめているらしい。連載を読んでいないので、どのような構成になっているかはわからないが、歩鳥の髪がベリーショートのときと普通の長さのときとの話が混在していて、時系列にはなっていないようだ。季節ネタは取り込まれているが、作品の性格上、それが現実の季節とリンクしている必要はないし、実際そうなっているかどうかは知らないし、どうでもいいこと。どこから読んでもかまわない。しかし、9巻まで来ると、さすがに登場人物それぞれのキャラクターや背景などが分かっていないと話に入っていけないところも多々出てきていて、興味があれば最初からということになろう。実写化なんて話が出てこないことを祈りつつ、歩鳥がばあさんになるまで読んでみたい作品である。

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