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December 27, 2010

ハーモニー

Harmonyハーモニー/伊藤計劃
早川文庫 ISBN978-4-15-031019-6

伊藤氏の遺作である。長編は3作残されているが、本作は1作目の『虐殺器官』の世界を継承している(アメリカで発生した暴動が世界的な混乱に発展し、「生府」によって再構成された社会が舞台。『虐殺器官』からおよそ半世紀後?)。また、テーマ的なものも1作目を引きずっており、その意味で続編と捉えてもいいかもしれない。

SFのタイプで言えば、ユートピアをテーマに扱った作品である。理想的な社会を追求して行った果てにあるものが何なのか。作者は現代を基点とし、自身の仮説に基づいて世界を延伸させていく。ここで描かれている世界では、人は社会的リソースとして手厚く保護管理されている。自分の身体は自分のものであって自分のものではない社会。健康に長生きしたいという個人的欲求を超えて、社会のために生きていなければならない社会である。そして、その世界の仕組みに反逆した少女たちを軸に物語りは進んでいく。

ロジックの積み重ねで創造される世界は、リアリティがありつつ、その実、空虚である。物語自体は現実世界で進められているにもかかわらず、その中身は進めば進むほど,観念的で哲学的色彩を帯びてゆく。そして、作品の核心は(前作同様)人間の脳に対する探求にある。統制された社会を目指した結果、人は自明の存在となり、悩みも怒りも不安もすべて取り除かれ、自由意志も必要としない世界になるという。これは、本当に人間が求める理想社会なのか。読後すぐさまその疑念が湧き上がるだろう。これは悪い夢だ。ディストピア小説であると。底の抜けたポストモダン社会の対極にあるものとして、ポスト・ポストモダン社会のモデルとして捉えてみてもいい。‘個’を取り戻そうとして、結果‘個’(自我)を喪失するパラドックス。すべての行動、選択が無意識化されるとは、どんな世界なんだろうか。

この世界は、人間が認識し行為することによって形成(意味化)されている。言い換えれば、人間の脳が生み出したものだ。だから、この世界を知るということは、すなわち脳について深く知ることを意味している。そして、免れぬ死を前にして作者がここにたどり着いたのは必然のようにも思う。死んだのちの世界はどうなるのか。そんな疑問が作者の頭の中に満ち溢れていたのではないだろうか。「意識のない世界」とは、彼なりの死後の世界への解釈だったのかもしれない。

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