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September 05, 2010

虐殺器官

Photo虐殺器官/伊藤計劃 

早川書房 
ISBN978-4-15-030984-8

最近新書でパッとくるタイトルがなく、たまには小説でも読もうかとおもって啓文堂をぶらぶらしたときに目に留まった一冊。黒のカバーにその2/3を覆う帯にはたたきがびっちり。表紙は文字に覆いつくされている。タイトルの下には、伊坂幸太郎、小島秀夫、宮部みゆきのビッグネームが並んでいる。三者とも絶賛である。さらにその最下部には「ゼロ年代ベストSF」第1位と記されている。もうこれだけで買う理由は十分だろう。久々に、日本の作家でまともなSF小説に出逢うことができた。

戦争ものである。のっけからグロい景色が描写される。読み進むごとに頭の中にその情景が鮮明に浮かび上がってくる。これは、オイラ自身がこれまで見てきた戦争映画のビジュアルの蓄積が再構成されているものの、その記憶を引きだせるほど詳細な描写だということだ。作者の筆力に圧倒される。逆流するその映像から、作者はハリウッド映画をイメージしながら書き進めていったのではないだろうかとも思った。世界をまたに駆ける物語の転がし方など、実にハリウッドが喜びそうなシナリオなのだ。
それは、おそらく「ゼロ年代」とあるように、作者の年齢に起因しているようにも思う。今日でも言葉を紡ぐタイプの作家はいるが、90年代以降あらゆる文化はビジュアル化している。その影響からは誰も逃れることはできない。主人公の母親への贖罪の意識が哲学的に昇華されないのはそのせいなのだろう。そこを浅いと読むか、主人公のキャラ設定における深みと取るかで評価は分かれる。ただ、この小説は、9.11を基点とした今日のさまざまな問題に対するひとつのビジョンを描くものであり、まさに本格派の近未来戦争アクションSFといえる。
確かに、`言葉が人間の残虐性を引き出す’という設定の描きこみが薄すぎる嫌いはある(それに関連して、脳科学の部分も食い足りない。あまりに欲張りすぎてしまった結果なのかも…)。言葉はまさに哲学である。消化しきれないのは仕方がない。まだ30そこそこなのだから。彼がもっと歳を取り人生とは何かについて思考を深めたときにもう一度取り組めば、さらに素晴らしい作品に仕上がるのではないだろうか。しかし、彼はもうこの世にはいないのだ。長編はたったの3作を残してあの世に旅立ってしまった。残念な話だ。

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