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February 22, 2010

日本辺境論

Nihonhenkyouron

日本辺境論/内田 樹
新潮新書 ISBN978-4-10-610336-0

『君が代』と『日の丸』の発祥を御存じだろうか。君が代の曲をつけたのはイギリス公使館にいた軍楽隊長のジョン・ウィリアム・フェントンと言う人で(日本人の手で多少改変されて現在の曲になった)、彼がどこの国でも国歌というものがあって、儀礼のときに必要だからというアドバイスで明治初期に制定されたという。「世界基準だから」設定されたのであって、もともと固有に日本にあったものではないのだ。日の丸も、「日の本」という言い方は、中国から見て東=日が昇る方角にある国という意味で、これも日本固有の起源を表すものでも何でもない。日本を語るということは、このことが万事なのである。

著者は冒頭から、本書のコンテンツに新しい発見は無いと断言する。すべてはこれまでの先達の教えをわかりやすくまとめたものであると。それにしても、とてもとっつきやすくわかりやすくあっさり読めてしまったので、著者の狙いは十二分に達成されていると思う。この本は、日本の周縁性、辺境性、後進性によって日本人固有の思考や行動性をわかりやすく説明してくれる、日本人解説書の決定版である。

著者はP23で早くも一つの結論を提示している。すなわち、“日本文化というのはどこかに原点や祖型があるわけではなく、「日本文化とは何か」というエンドレスの問いの形でしか存在し”ないのである。丸山眞男の著述からの引用で、“私たちはたえず外を向いてきょろきょろして新しいものを外なる世界に求めながら、そういうきょろきょろしている自分自身は一向に変わらない”とも言っている。これは、日本が常に文化的、政治的にオリジンを持つことなく外部の何らかの権威によって左右されてきたことを示すものだ。徳川の前までは中国がその中心であり、日本は日出る国であることから、中国から見て東に位置することを表しており、すなわち東の外れにある辺境の地である。そのために、中央の意向が強く働かず、程よくローカライズ(厳密に順守しなくてもいい、いい加減さ)できた所に日本の日本らしさが育まれてきたというわけだ。これに、司馬遼太郎の説く地勢的な性格付けが加わって、日本民族固有の性格が形成されていったと思われる。戦後、アメリカがその中心になっても、結局日本は“Far East(極東)”であり、その同心円の中心がさらに西に移動したに過ぎない。

つまり、簡単にいえば、日本人に日本固有のオリジナルな規範は存在しないということだ。すべて基準は日本の外にある。比較することでしか日本を語ることができない。この基本ルールを用いて、日本のあらゆる事象をみていくと、不思議なほどに合点のいくことが多い。太平洋戦争をおっぱじめた会議において存在した“空気”についても、このロジックで説明がつく。確固たる精神や思想は存在せず、すべては相対で決定されるということ。自分は止めるべきと思いつつ、その場の空気には抗しがたかったという言い訳は、すべてこの日本人特有の“きょろきょろする”ことが原因になっている。自分では決められないのが日本人なのだ。だから、歴史のターニングポイントには必ず外圧が存在している。
我らがサッカー日本代表についても全く同じことが言える。サッカーの日本化なんて言っていることそのものが嘘であり、“きょろきょろする”ことこそが最も日本的なのだ。日本人の特性に合ったなどと言いながら、ムービングサッカーそれ自体はアルゼンチンを筆頭にいろいろな国が実践してきた。この間のユーロで優勝したスペインなどは一つのステレオタイプだろう。いつの間にかスペインサッカー協会と提携したり(これは多分にヒロミ効果だとは思うが)節操がないのもそのせいなのだ。ことサッカーでいえば、外部のオリジンを徹底的に模倣し、それを日本流にアレンジしていく方がよっぽど日本的であるし、成功の確率も高い気がする。

言語学的な解説も興味深い。日本人は言語を2つの脳領域によって処理しているという。漢字を男性言語、かなを女性言語として、漢字は公式文書&建前、かなは日常生活&本音と置くと、日本人のコミュニケーションにおける二重性の根本が日本語の構造と日本人の言語処理能力に起因してるということがわかる。欧米の言語にはこのような二重性は存在しない。だから、彼らの思考や主張はストレートにならざるを得ないのだ。漫画も二重性コミュニケーションが生み出した文化形式である、映像を右脳、文字を左脳で同時に処理している(養老先生の受け売りの部分)。日本人はこの能力がもともと発達していたためにこのような文化が発展したのだという。そして、この二重性のおかげで、日本人の難読症率は非常に低い。実に炯眼。

このほかにも腑に落ちる話がいくつもあるのだが、とにかく目から鱗がぼろぼろと落ちた一冊。なぜ、日本代表が強くならないかは、この本を読めばよくわかると思う。

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