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October 12, 2009

マン・オン・ワイヤー

夏休み以降はどうにもピンとくる映画がなくてお見限りだったが、6月頃見逃したマン・オン・ワイヤーが下高井戸シネマでかかっていたので観てきた。フランス人大道芸人であるフィリップ・プティが、建設間もないワールドトレードセンターの双子ビルの間を綱渡りしたドキュメンタリー映画だ。当時の偉業(とはいえ、れっきとした犯罪ではあるが)を間近で収めたフィルムもなく(路上から見上げたものしかない)、関係者のインタビューといかにもBBCっぽい再現ドラマで構成されている。観た感じちょっとチープではあるが、それでもなお軽い感動を覚えたのは、プティの夢の大きさと、彼の仲間たちのプロジェクトに対する情熱がストレートに伝わってきたからではないだろうか。そして、この作品はとりもなおさず9・11のレクイエムでもあるのだ。

Mow プティは16歳の頃ワールドトレードセンターが建設されることを知ると、まだできてもいないビルの間で綱渡りする夢を描き、その実現に向け行動を開始する。ノートルダム寺院やオーストラリアのハーバー・ブリッジを綱渡りしながら6年にわたって計画を練り、そしてついに1974年8月7日、彼らは”突撃”したのだった。

高さ411m、長さ60mの綱渡り。命綱もなく、細いワイヤーを踏み外せばそれはすなわち死を意味する。その上を彼は45分間にわたって8回渡ったという。表現素材は数枚の写真と、地上から上を見上げたズームもほとんど効かないような16mフィルムしかない。しかし、その緊張感は、たった数枚の写真であっても十分すぎるほど伝わってきた。観ていて膝のあたりがゾクゾクと疼いてくる。あろうことか写真の彼は微笑んでいるのである。いつものようにワイヤーに寝そべり、また跪いて礼をして見せるプティには、高さも死も全く関係なかった。411mという高さは、日ごろ飛んでいる自分にとっても感覚的に理解できる高さだ。それだけに、そこを何の救命装置なしに歩くことの無謀さ、恐ろしさは切実なまでによくわかる。高いところが好きといっても次元は全く違う。わかるからこそ、その凄さにただただ驚き感動するほかなかった。

当日の設営には相当の苦労と幸運があり、相棒であるルイがインタビューの途中感極まって言葉を詰まらすシーンには、思わずこちらももらい泣きしそうになってしまった。それだけ、苦労したということだし、その達成感や安堵感が彼の頭の中で一気に再生したのだなと思う。それにしても、無茶をやる主人公にいやいやながらつきあわされ巻き込まれ、喧嘩しながらも結局最後まで付き合ってしまう、不幸なサブキャラを地で行く人だったな。こんな漫画みたいな人がいることもこの作品におけるもう一つの驚きだった。

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