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May 14, 2009

グラン・トリノ

72gran_trino1972年製フォードグラントリノ・2ドアスポーツファストバック。これぞアメ車というカッコ良さ。ちなみに76年製はかの『スタハチ』も乗っていた名車である。作中におけるこの車は、長年フォードの工場に勤務してきたウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)の誇りであり、また古き良きアメリカン・スピリットの象徴でもある。世は移り変わろうとも善きものは永代受け継がれていくべきだというイーストウッド翁の訴えは今の若者達に響くだろうか。ウォルトの古きよき時代の価値観を共有あるいは共感できるかで、この作品の見え方も違ってくるように思う。オールドタイプのオイラはやっぱりほろりとしてしまった。(ネタバレ)

Gran_trino ウォルト・コワルスキーは朝鮮戦争で従軍し、帰還した後はフォードの工場で勤め上げた愛国者だが、人を遠ざけいつも不機嫌だった。長男はあろうことかトヨタのセールスマンになり、孫娘は鼻とへそにピアスをし、おばあちゃん(ウォルトの奥さん)の葬儀にへそだしルックで参列する。次男はウォルトを老人ホームに入れて家を自分のものにしようと画策する。居住区からは白人が出て行き、その代わりに黒人やメキシコ人やらアジア人やらがやってきて町の風景を変えていく。古きよき時代を引きずったまま、そんな環境の変化を苦々しく思いながらも愛犬デイジーと一人暮らしをしている。そんなウォルトが、ふとしたことから隣家に引っ越してきたモン族のタオ(ビー・ヴァン)とスー(アニー・ハー)家族とかかわりを持つようになり、偏見に凝り固まっていた彼自身が次第に変化していく。

作品のなかにはたくさんの“皮肉”(アイロニー)(それらは表層的であったり構造的であったりするし、時にユーモラスにも見える)が散りばめられている。その“皮肉”は自分の人生にも置き換えられるものであり、そこで共感の下地をうまく作りだしていく。そして最終的に、タオとスーのために良かれと思ってしたウォルトの行為が結果的にスーを傷つけてしまったエピソードに、観ている側も打ちのめされることになるのだ。この緩やかに同期させていくシナリオと演出は実に見事。また、登場人物のキャラクターにしても、紋切り調ではなくそれぞれに複雑なものを抱えていて、その奥深さをいろいろなエピソードを通じて丁寧に描いているからリアリティが増し、それが感情移入をしやすくしている要因になっているように思う。

イーストウッド作品には必ず「生と死」「救済」というテーマが据えられている。この作品でも、“スーたちに対する落とし前”という形でウォルトの心の救済が描かれる。
本作における重要な役割として「教会」が出てくるが、ウォルトの決意に逆に新米神父が教えられるという皮肉も用意されているぐらい頼りない存在として描かれている。この手の主題を扱う欧米映画はたぶんにキリスト教の影響を強く受けており、その説教臭さ、ご都合主義的なつくりにはいつもうんざりさせられるのだが、イーストウッド作品はこのように宗教的なところとは一線を画しており、宗教バックグラウンドのない日本人でも普遍的なテーマとしてすんなり受け入れることができる。残念な結末ではあれど、『ミリオンダラー・ベイビー』のような重さはなく、むしろ清清しくジワーっと心があったまる一本だと思う。

追記:この作品の根底にはやはりキリスト教の倫理観が寝そべっているらしい。西欧価値観のなかでは、「生と死」や「心の救済」はキリスト教抜きには語れないのはわかる。作品において、表面的に教会を皮肉るのも逆説的にキリスト教の本質を強調しようとしている狙いなのかもしれない。これはキリスト教に造詣の深い人間でなければ理解は難しいだろう。ただ、無宗教の日本人があえてそこまで踏み込むことはないと思うし、表層的な物語性だけでも十分言いたいことは理解できると思う。

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