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October 10, 2008

なぜ日本人は劣化したか

Photo なぜ日本人は劣化したか/香山リカ

講談社現代新書 ISBN978-4-06-149889-1

まぁ、この時代に漠然と横たわっている不安感について考えるための導入書としては手ごろかもしれないと思った。ただ、取り上げてある事象については結構偏った見方が多く、印象論の域を出ていない。

それにしても、読んでいて「劣化」という言葉には違和感がある。著者自身も時代の部分をポジティブに捉えてみようとしたことをあとがきで書いているが、それでもなおこの言葉を使ったのには、「他人の気持ちを想像する力」や「弱い立場の人や少数者に対して寛容な心を持つ力」はポジに捉えるべきではない、衰えさせてはいけない力だから、とその理由を述べている。しかし、身体能力や文化的な側面での変化をも一括りに劣化としてしまうのはどうかと思うし、タイトルに“なぜ”とついている割には、その理由のすべてをいとも簡単に“新自由主義”と決め付けてしまっているところも首を傾げてしまう。いくらなんでもこれは乱暴すぎる。「他人の気持ちを想像する」とか「弱者の立場に立つ」ということは、他者との関係性を理解しなければ始まらない話で、そもそも“新自由主義”とは関係ない。重要なことは、“香山氏が良かったと思う時代”から“コミュニケーションの形が大きく変化している”ということであり、ある意味コミュニケーションが大切な職業に携わっている人にしては肝心な視点が抜けているな、というのが率直な読後の感想でもある。

新自由主義の前に、今の日本を形成しているのは結局戦後日本の積み重ね=蓄積の結果なのだという認識を持つべきだ。日本におけるモラルの後退はおそらく戦前との比較によるものだろう。旧来の儒教的な価値観は戦後教育とアメリカ文化による洗脳によって解体されてきたわけだし、家族の関係性にしても、家父長制からフラットな家族観へ世代を重ねるごとに変化してきた。そこには、アメリカのテレビドラマをステレオタイプとした、憧れの幸せな家族像が下敷きとして存在していた。

人との関係性の変化は単に人だけの話ではない。たとえば住居。昔の日本家屋は「個室」という概念がなく、スペースを隔てるのは薄い障子であり、話し声は聞こえるし人の気配までも感じ取れる空間設計だったが、戦後住宅は、鍵も閉まる個室が作られ子供たちはそこに篭るようになっていき、自然同じ屋根の下に居ながら誰がどこで何をやっているかがわからなくなってしまった。このほか食文化など、身近な生活のそこここに、今の個の断絶を生む仕掛けをたくさん見つけることができる(大塚さんの言う「公共性」もこの辺に帰ってくる話なんだろうな)。戦後の“アメリカ思想”および文化の浸透が良くも悪くも今の日本のベースを形成しているのだ。“新自由主義”はそれらを加速させたに過ぎない。

“日本人が劣化した”と感じるのであれば、それはアメリカ化とかなりな部分同義であり、日本人としてのアイデンティティが希薄化しているということなのだ。日本は他のいいものを吸収して自分のものとし(日本化)、さらにいいものへと昇華させる能力を持っているが、日本より遅れてバブルにあえいでいるアメリカにはもはや吸収すべきものはない。日本はそろそろ自分たちの中に価値を見出さなければならない時代に入ってきているのだと思う。

それはやっぱり、「ものづくり」ってことじゃないのかなぁ。

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