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April 01, 2008

ノーカントリー

Nocountryforoldman_2  原題は「No country for old man」。殺し屋アントン・シガー役のバビエル・バルデムがオスカーを取ったこともあって、公開前は話題の中心から主役であるはずの保安官エド・トム・ベル役のトミー・リー・ジョーンズが完全に消えてしまっていた。しかし、この原題と映画を観終って、なるほどそういうことかと納得した。主題をきわだたせるためには、殺し屋シガーには徹底的にやらせる必要があったからだ。それでいて、この作品はやはり老保安官の物語なのだ。(ネタバレ)

作品自体は、麻薬取引にかかわるヤバイ金を持ち逃げした男(ルウェリン・モス=ジョシュ・ブロリン)を殺し屋が追い、その殺し屋を保安官が追うという単純な話だ。迫まり来る殺し屋の恐怖からいかに逃げるかというサスペンスではあるものの、観ていてすぐにタダのサスペンスではないことに気づく。モスとシガーの緊迫した追いかけっこに明らかに異質なシーケンス(保安官のパート)が挿入されているからだ。コーエン兄弟は、エンターテイナントの中で「死」について語ろうとしている。
この世の中は不条理に満ちあふれ、あたり前の平隠な生活は常に狂気に脅かされている。死はいつも生と隣合わせに存存している。直接的に不条理な殺人が身に振りかかることもあるし、突然の交通事故に見舞われることもある。事実ここ数ヵ月の間、日本でも無差別殺人が連続して起きている。いとも簡単に大した理由もなく人が殺される世の中。「ただ人を殺したかった」その動機にはほんとうに驚かされるが、この作品に登場する殺し屋シガーは、こういった現実世界の異常者の象徴なのだ。金も薬も超越した個独自のルールによってのみ“動かされている”=常識が通用しない常識では計り知れない存存。他者を思いやることなど全くない。彼らはなぜどうやって生まれてきたのだろう。この映画を観て、そして現実世界の理不尽な殺人事件を思うと、その疑問はより一層強くなる。
だが、彼らは突然やって来る。シガーこそ死のメタファーなのだ。しかし、その死神のようなシガーにすら突然死の影(交通事故で大骨折を負ってしまう)が襲いかかる。モスがメキシコ国境を越えたときと同じように、通りがかりの少年にシャツをよこせと言うシガーは滑稽でもありまた哀しくもある。
ラストシーン、ベルは妻に昨夜見た夢の話をする。夢の中で、自分の今の年齢より若くしてこの世を去った父親と彼は二人で山へ入っていく。父はどんどん先に行ってしまうのだが、彼が火をおこして待っていてくれると思いながら、彼は父の後を追いかけた(確かこんな話だった)。この夢の話で映画は終わる。
このエピローグのようなベルのエピソードを聞いて、オイラは小林一茶の句を思い出した。
“親が死に子が死にそして孫が死に”
結婚式で贈った句と言われているが、代々子孫を残し古い者から順に死んでいくことが一番幸せなことなのだということを言っている。たぶんベルの夢の話も似たような意味なのだろう。彼は年老いて保安官という職の危うさに気持ちが折れてしまった。今回シガーの一件でそのことを痛感し退職を決意する。そして、愛する妻と穏やかな人生を送くろうとした矢先、父親の夢を見たのだ。”年老いた人間が安心して余生を送れる国はない。”死からのがれることはできないが、せめて自然の摂理に従えたら、それだけでも幸せと思わなければならない。現代社会はすでに狂ってしまっていることを改めて思いしらされるのであった。
さて、作品としては、そのシガーの不気味さを最大限引き出すつくりになっている。当然バルデムの演技は秀一。いつかどこかで見かけたことがあるような薄気味悪いオヤジをリアルに再現している。ポイントは目だと思う。あの目は、まさしく何を考えているかわからない、ちょっと危いオジサンの目だ。トミー・リーは、くたびれてやる気のうせた保安官を好演。でも役柄そのものからしてオスカーノミネートは無理だった。
シガーの武器は圧縮空気だ。余計な根跡を残さないということなんだろうが、職業的要請以外に理由があるような気もする。これを使ってとにかく殺しまくる。描写としては相当きついところもある。ただ、不要なあるいは過剰な演出は排徐されていて、その点は好感が持てた。たとえばモスの女房のケースとか。

最後にシガーが殺した(と思われる)人をリストとして残しておく。
・保安官補
・パトカーで止めたドライバー
・麻薬シンジケートの一味2名
・現ナマの反応があったモーテルの部屋にたまたま泊まっていたメキシコ人3名
・モーテルの支配人
・モスが飛び乗ったトラックのドライバー
・シガー暗殺に差し向けられた殺し屋
・鶏を運んでいたドライバー
・シンジケートのトップ
・その会計係
・モスの女房
一回観ただけなので人数も順番もあやしい(要検証)。たった一人を殺すためにこれだけ殺すことのできる理屈はどこにもありはしない。R-15指定では不十分だと思う。

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