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September 03, 2007

シッコ

ムーアがアメリカの医療制度がいかにひどいものかを訴えるために、さも他国がまるで天国であるかのように描くことには抵抗がある(イギリスだって別のところで医療問題は存在しているが、この映画では全く触れられていない)が、彼がその奥で訴えようとする互いに助け合う心は、今の日本でも忘れられようとしている。そのことを思うと不覚にも涙がこぼれた。美しい国どころか、彼の国を追従して本来日本が持っていた美しい人の心を失うような社会にしようとしているのは一体誰なのか。日本のジャーナリズムは、このテーマで問題提起する映画を作らないのだろうか。

アメリカには国民健康保険制度がなく、基本は民間保険会社の医療保険に任意で加入する事になってる。しかし、保険に加入するには高い健康上のハードルが設定されており、入れたとしても保険適用には様々な制限が掛けられている。
たとえば、自転車に乗っていたとき交通事故にあって気絶し、救急車で病院に搬送されたが救急車の代金を保険会社に請求しようとしたら、救急車を利用するには“事前に”保険会社の了承が必要と言う条項によって支払いを拒否されたと言う女性の話。
救急で搬送された先の病院が、加入している保険会社がカバーしていないと言う理由で受入を拒否され、それが原因で子供を失った母親の話。
医療費が払えないからといって病院が患者をタクシーに無理やり押し込みダウンタウンの路上に捨てる。…etc
こんな事がまかり通る社会は異常としか思えない。制度の問題ではなく、人の心の問題だ。利益優先の企業論理が人心を駆逐していく様は空恐ろしいものがある。その当事者たちの一部が良心の呵責に耐えかねてムーアにネタを提供したのがこの映画なのである。

日本でも保険会社の未払いが問題になったばかりだし(本作で描かれるアメリカの保険会社はもっとえげつなく、積極的にどうすれば保険料を払わずに済むか言い訳をつくるプロまでいる)、国は医療保健費を圧縮するため患者の負担を引き上げる。産婦人科と小児科はそのリスクの高さから医者のなり手がいない。一方で、利用者である患者側のモラルも恐ろしく低下している。医師に対する暴力事件も増えているらしい。これでは相互信頼なんて無理だ。勢い病院側も身元のハッキリした金の取れる仕事しか受け容れなくなってしまうのだ。国は制度や仕組みを作って片付けようとするが、問題の本質は国民の心にあるという事を直視して、そこに向けた対策を施さなければ何の解決にもならない。
9.11の英雄たちすら、救助活動によってわずらった病気をまともに見てもらえていないアメリカの現実。彼らを救うために、よりによってキューバに連れていったところがマイケル・ムーアの真骨頂といったところだが、イデオロギーは別にしても加入者の金を搾取することで肥える米国の保険会社こそ米がプロパガンダする悪魔の社会主義体制ではないのか。社会主義になったら個人の自由は全て奪われてしまうという極端な発想を受入れてしまう米国民性にもあきれてしまうが、金と契約しか信じられないのは人として不幸な社会だ。
日本をそんな社会にしたいのですか。

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なぜ産科医は患者を断るのか 出産費用踏み倒しに「置き去り」

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