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December 11, 2006

ユナイテッド93

観る前から、フィクションとしてみるべきかノンフィクションとしてみるべきか悩んでいた。遺族からの取材を通じて、ハイジャック機内の様子を実際になるべく近い形で再現したとの触れ込みだった。有名俳優は起用せず、事実らしきものを淡々と追っていくスタイルは、所謂リアリティ・ムービーであり、ドキュメンタリーともエンターテイメントのパニックムービーとも違った奇妙なテイストの作品に仕上がっていた。しかして、観終わって、この映画は一体何を目的としてつくられたものなのかが理解できなかった。

少なくともこの映画はフィクションであることはわかった。事実をベースとしているが、映画としての演出は施されている。それは、一般的な映画演出とは異なるアプローチであり、主人公の存在しない事象そのものを主体化した表現といえる。冗長な導入から、93便がハイジャックされ乗客が操縦席に一気になだれ込むクライマックスまでの盛り上がりは、やはりこれは商業映画なのだと思わせるに十分なやり方だ。事実をベースとした映画でも、ミュンヘンやロード・オブ・ウォーのようなアプローチとならべて見ると、これはこれで演出手法として新鮮に映る。ただ、全体的に画格が決まってしまっていて動きに乏しく(主観的なカメラ目線もちょっと揺れすぎでうるさい感じ)地味だった。最後に派手な墜落シーンでも持ってくれば全体の印象も変わったのではないかと思うのだが。

一方、シナリオとしては非常にシンプルで、我々が知っている結末に向けて淡々と進んでいく。余計な挿話は一切排除されている。ただ、その中で、各地の管制センターと軍管制センターとの関係がよく分からず、軍がリアルタイムで何をやろうとしていたのが伝わってこなかったのはどういうことなのだろうか。最後の字幕解説をするぐらいなら、なんらか本編に挿入する事も出来たのではないかと思うし、いくらリアリティ・ムービーでもある程度の説明的なものは必要なのではないだろうか。航空システムなんて、一般人にはわからないし、ただ騒がしいだけで何が危機的なのかもよく伝わってこなかった。本編の多くの時間を占めている割に、意味づけが非常に弱かった。

93便がハイジャックされてからクライマックスまでの盛り上げ方は上手かった。操縦席に押し込もうとする乗客に、心の中で「早く、早く」「頑張れ、もう少し」と思わず応援してしまうぐらいだった。ただ、アメリカ人だからなのかは分からないが、操縦桿を奪うことだけに頭が行ってしまって、争う事でどうなるかまでは考えが及ばなかったようだ。飛行中にアレだけ操縦桿を振り回してしまっては、プロだって姿勢制御が難しいと思われる。まして、プロペラ機しか操縦したことのないパイロットになど到底手に負えるものでもない。操縦桿を奪う前に、操縦しているテロリストを先に片付けなければならなかった。殺し(あるいは気絶させ)てから奪えば何の問題もなかった。そのときに高度がどのくらいだったとかいろいろ状況はあろうが、少なくとも地表に激突することだけは避けられたのかもしれない。ノンフィクションだったからこその結末とも言えるが、粘土爆弾といいセラミックナイフといい、そんなものでハイジャックされてしまう航空機の防衛システムこそ警鐘の対象であって、テロの恐怖より対応力の低い航空会社のほうがよほど怖い。

総合的に見て映画作品として何か残るものがあるかといえば、全くないのだ。わかっている結末、印象に残らない登場人物や会話(科白じゃないな)、事実を超えて伝わってくるものは何もない。アンチテロのプロパガンダ、リメンバー911、犠牲者へのレクイエム。どれをとってもピンと来ない。作り手は何を観客に期待したのだろう。まさか、こんなことで悩むことは予想していなかったとは思うのだが。

ココから何を読み取るか、それは観た人にすべて委ねられている。

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